2022年4月にNPO法人となったクローバーの会@やまがたへ、法人格取得について理事長の樋口愛子さんのお話をうかがいに、8月17日、南原町にある支援拠点におじゃましました。
私達が訪問した時には7,8人ほどフリースペースに来ている子どもたちがいて、それぞれにゲームをしたり本を読んだりと、とても賑やかな雰囲気でした。
これまでの活動の歩み
まずはこれまでのクローバーの会@やまがた(以下クローバーの会)の歩みについてお聞きしました。
もともとご自身のお子さんの不登校に悩んでいた樋口さんが、「ぷらっとほーむ」という任意団体を見つけたのをきっかけに、そのなかの1事業として2014年に不登校児の「親の会」が設立されました。2015年にぷらっとほーむから独立して、任意団体として活動を開始することになります。
2019年にはぷらっとほーむが解散することとなり、そこで運営していた若者向けのフリースペースがなくなってしまうのは困ると、みずから手を挙げて事業を引き継ぐことを決意します。それまでは基本的には樋口さん1人の組織として活動していましたが、これをきっかけに、ぷらっとほーむのスタッフの方々も合流して大きな組織となりました。
現在、スタッフは専従3名、非常勤4名という体制で、県の委託事業であるフリースペース、そこから一歩踏み込んだフリースクールを中心に、子ども・若者食堂「みどり町こどもひろば」やプチ・フードパントリーなどさまざまな活動をしています。
そのように組織も活動規模も大きくなりましたが、会にとっては不登校やひきこもりの子どもを持つ「親の会」が活動の核であり、いまでも一番大事な事業ととらえているそうです。基本となるのは、まずは親御さんを支援して、元気を取り戻してもらうことで子どもたちも変わっていくという考え方です。そのため、普段から子どもたちには無理強いすることなくそのままでいいよと言って接しているのだそうです。
任意団体からNPO法人へ
活動を始めて数年、任意団体として事業を展開してきましたが、県の委託事業を受ける際に任意団体のままでは様々な制限がかかるため、いよいよ本格的に法人化を検討し始めます。樋口さん自身最近まで他の仕事を掛け持ちしながら活動していましたが、会の活動を専従の仕事にしたいという想いをずっと抱いていました。そのためには今まで以上に委託事業なども獲得していく必要があり、法人化することで団体の信用度を上げて、ほかのスタッフも掛け持ちではなく専従で活動できるようにしたいとの想いもありました。
本来、活動に賛同する市民の寄附や活動への参加によって成り立つことがNPOの理想のあり方です。けれども寄附という文化が根付いていない日本において、継続した活動を行うためには助成金に頼らざるをえないというのが現状です。安定したNPO経営を目指すならば、ある程度委託事業をとらざるを得ません。安定した活動をしたい。それが法人化を目指した一番大きな理由だったと樋口さんは言います。
「フリースクール」、そして「親の会」の今後
これからの課題についてもお聞きしたところ、フリースクールについて話してくださいました。現在受け入れているお子さんで定員ぎりぎりの状態で、利用したいという子どもがいても断らざるを得ない場合もあるそうです。ですがここは、学校に居場所がない子どもたちにとって生き延びるための大事な場所です。将来的に多くの人が集まることが可能になれば、より広い拠点に移って、フリースクールを希望する子どもたちを全員受け入れられるようになりたいと樋口さんは言います。
そしてもうひとつ。
樋口さんは現在、山形県内の各地域で「親の会」の立ち上げ支援に力をいれています。この活動を始めるきっかけは、県の委託事業として県内各地で出張相談会を行ったことからだそうです。各地で個別に相談を受けてもその場だけで終わってしまい、その後のフォローまで手が回らず、もどかしく思っていたそうです。
もし「親の会」がその地域にあれば、悩みを持った親がいつでも集まることが出来るし、悩みを話したりできる—それからは訪れた地域に「親の会」を立ち上げることを目標にした出張相談会に切り替えました。そのようにして活動した結果、立ち上げた「親の会」は全部で9か所になるとのことです。
将来的にはそれぞれの「親の会」をネットワークで結びたい。現状では仮に教育委員会の不登校児への対応に関して要望があったとしても、たった1人が声を上げてもそれが通ることはありません。実際とある先生からはこのようなことを言われたそうです。
「たとえその制度に疑問があったとしても、上からの決まりを私たちで変えることはできません。私たちは上から降りてきたことはできるけども、親御さんの意見を上にあげることはできません。」—じゃあどうしたらいいの?10人で言えばいいの?100人で言ったら考えてくれるの?そう思ったとき、子どもの環境を整えるには親が結束して行政に言わなければ変えられないんだと気づいたそうです。数多くの「親の会」の総意として声を大きくして言うことで、行政にもその声を届けることができる!同じ立場の人同士でつながりたいという気持ち、それと子どもたちの環境を変えていきたいという想いが「親の会」には込められていると樋口さんは言います。
今後の目標としてはこれまで通り「親の会」の立ち上げを継続しつつ、まだ「親の会」がない市町村にもこの活動を広げていきたいとのこと。そのような市町村もまだまだたくさんあり、そのような地域格差をなくすためにも、どこにいても必ずその地域にはひとつ「親の会」があるという環境をつくりたいと話してくれました。
ただ、立ち上げには多大な労力と時間がかかるそうで、ひとつの会を立ち上げるのに半年ほどかかりっきりになるため、がんばっても1年で2か所程度しか立ち上げられないそうです。けれどもそのようにして立ち上げた会はどこもやめずに継続してくれていて、現在は各「親の会」とLINEでつながって悩みを共有したり、励まし合って続けていけるように後方支援しているといいます。今年は白鷹と尾花沢での立ち上げを目指して、現在準備中とのことです。ゆくゆくはそのネットワーク自体を法人化して、NPO法人「親の会」としても活動していきたいと樋口さんは言います。
「クローバーの会@やまがた」の強み
最後に、「クローバーの会@やまがた」の強みについて話していただきました。
—スタッフは全員当事者経験があるというのがなんといっても私たちの強みです。本当の意味での当事者団体ということ。私達がやっているのは当事者中心の居場所づくりであり、当事者が主体となって行う不登校支援です。臨床心理士がいる、社会福祉士がいるといった支援団体や施設ではなく、自分たちが必要だと思うから居場所づくりをしているんです。
ここはまさに子どもにとって「生き延びるための居場所」だと樋口さんは言います。まず、生きてさえいればそのあと何とでもなる。先生によっては、フリースクールはただ遊んでいるだけと思われることもあるそうです。でもここでは生きる勉強を、社会で自立する勉強を日々やっているわけで、そこを評価してもらいたいと樋口さんは言います。
今後は「親の会」のネットワークをフル活用して、教育委員会へ声を上げていくしかないかな?と笑っていました。
そんな樋口さんの挑戦は、まだまだ続きます。
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子ども・若者たち、その家族の居場所づくり
特定非営利活動法人クローバーの会アットやまがた
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