令和6年6月30日(日)に、当センターで開催された「紙芝居制作出前講座」を取材させていただきました。これは令和6年度伝統芸能育成事業こども伝承活動ふるさと塾「出前講座」として開催されたもので、山形紙芝居研究会とどんびんさんすけの会との共催事業です。

会場に入ると、参加者の方々が温かく迎えてくださいました。中には、遊佐町、飯豊町、西川町などの遠方から参加された方もいるそうです。紙芝居に興味があれば誰でも気軽に参加することができる和やかな雰囲気でした。講師のときわひろみさんは、宮城県を拠点として「みやぎ紙芝居の会」等を主宰されています。紙芝居作家、紙芝居実演家、絵本研究家の3役をこなしており、自身でも数々の優れた作品を創作されています。とても明るく活気に満ちた方で、「先生」と呼ばれ慕われており、取材にも親身に対応してくださいました。

講座では「カラスタクシー」「おおげいやく」「くだものの花クイズ」「カンちゃんカラスになっちゃった」「じいちゃんのさくらんぼ」の5つの作品の実演を見せていただきました。高齢者の免許返納について考える作品から、トチやなめこ汁など山形の郷土料理や風習に触れる作品。子供が楽しめる仕掛けに山形の特産品である果物を当てる作品など、非常に多岐にわたった内容でした。

山形紙芝居研究会代表の折原さんによる「じいちゃんのさくらんぼ」は、山形のさくらんぼのブランド品種である「やまがた紅王」を題材とした作品でした。「やまがた紅王」の栽培過程が丁寧に描かれており、出荷に至るまでの農家の方の苦労や思いが伝わる、とても郷土愛溢れる作品となっています。どの紙芝居も、心温まるユーモアたっぷりの語り口で、その内容にどんどん引き込まれていきました。

紙芝居を製作するうえで大切にしていることを尋ねると、実際に取材を行ったり、仲間たちと意見を交わしたりするなど、会話を中心にすることや、オリジナルであることだと話していました。内容に関しては、山形のことを山形の言葉で語ることや、歴史事実に基づくもの、心が和やかになるように、人の心を育むものにこだわっているそうです。また、紙芝居は「人の心」が現れるもので、読み聞かせとは違い、登場人物になりきって「演じる」ことが大事だとおっしゃっていました。

演じる上でのやりがいを尋ねると、皆さん口をそろえて「見てくれる人が笑っていたり、喜んでくれたりする時」だとおっしゃっていました。実際に実演の際には、あちこちから笑い声が飛び交っていました。「演じ手」が紙芝居の内容に付け加えて新たな情報や冗談を挟んだり、そこに「聞き手」が相槌を入れたりと、演じる側と聴く側のコミュニケーションが印象的でした。こうした「演じ手」と「聞き手」のやり取りが、紙芝居をさらに面白くしているのだと感じます。

紙芝居という媒体の魅力はこのような「演じ手」と「聞き手」とのコミュニケーションにあるといいます。テレビやYouTubeの動画などは、情報が一方通行です。一方で、紙芝居はお互いにコミュニケーションをとることが出来ます。また、紙で情報を伝えている分、映像で見るより長い時間同じ絵を見ることが出来ます。これは「聞き手」の想像力を掻き立てたり、「演じ手」と世界観を共有し共感力を高めたりすることにもつながります。

今回の講座に参加して、紙芝居は人の心を豊かに、そして和やかにしてくれて、時に道徳的な話を訴えかけて考えを深めさせてくれる、また人の温かさを感じることができる素晴らしい文化であると実感することができました。山形紙芝居研究会では、小さなお子さんや高齢者の方に演じる機会が多いといいます。紙芝居に触れる機会が失われつつある中高生や社会人など、さらに多くの人たちにも魅力が伝わっていってほしいと思いました。

  • お問合せ先

山形紙芝居研究会 代表 折原由美子
TEL:023-644-1696